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Review

十年後から浮かび上がる
香港の「今」
野村 麻里(執筆・編集)

2016年、新年の香港。「10年後の香港を舞台にしたSF」という前知識だけで、何気なく見ようと思ったのが「十年」でした。

当日の昼、前売りを買いに行くと、すでにレイトショーの最前列が2、3席残っているだけ。私は普段なら、最前列で見るくらいなら、別の日にしようと思う性格ですが、この時は何か、勘のようなものがあって、これは見逃さない方がいい、と思いチケットを買いました。

その日の午後、香港人の友人達に何気なく「十年っていう映画を夜、見に行く」と言うと「いいなあー! 見たいんだけど、まだ見てない」「よくチケットあったね」「もうね、泣くよ。絶対、泣く。見た友達はみんな泣いたっていうもの」と興奮気味に言われ、どうも「十年」はただのB級SF香港映画ではないらしい、と気づいたのです。

果たして、見ていると途中から、あちこちで鼻を啜る音が聞こえてきました。私も泣かずにはいられなかった。最後の台詞が映し出されると、一斉に拍手が起こりました。

もし、香港に何の思い入れもなければ「十年」は大した映画ではないかも知れません。特撮もないし、低予算のインディーズ映画。オムニバスで一遍が短いこともあり、話もワンアイデアで単純、そう思う人もいるかも知れません。

そんな小作がなぜ、製作費750万円で、9200万の興業収益を上げ、2016年には香港金像賞で最優秀作品賞を受賞したのか?

そこにはいくつかの理由がありそうです。

一つは、この映画には香港に住む人々が日常的に見ている、または見てきた光景が映りこんでいるからです。

そしてもう一つは、この映画に出てくる「未来」は今、人々が直面している問題そのものだからです。見慣れた風景の中で不穏な未来が描かれていたら、これは感情移入しない方が難しいでしょう。

「十年」がいかに残酷な寓話であるか。けれど、これが香港だけの物語ではないことは、今、世界中で起こっている出来事を見れば、明白だと思います。

香港では武侠小説家、金庸の作品が長い間、幅広い層に読まれているのは、物語に現実を重ねあわせながら読むので大人も楽しめるからだといいます。

裏読みは中国人の伝統(鄧小平の「香港人は、五十年はダンスが踊れる」という発言が「香港は、五十年は自由を謳歌できる」という意味だったように)なのです。

しかし「裏読み」が必要ないほど、「十年」はストレートに、今の香港の問題をあぶりだしているのですが、それでも観客が「これはあの……」「あれはあれの……」などと、想像しながら見る面白さはあります。そして最後にいくつか、「十年」を読み解く上でのキーワードになりそうな事項について書いておきます。

「香港風味」

『十年』の世界をより知るために――
香港風味

“返還二十年”を迎えた香港。食べることを愛してやまない人たちと、料理が織りなす様々な風景を、かつて香港に暮らした著者がつぶさに描く。

  • 著者:野村 麻里
  • 出版社:
  • 定価:1,600円+税
  • 5月19日発売
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